Beauty×AI(人工知能)を軸としたアプリ「viewty」やスマートミラー「novera」を開発する株式会社Noveraは、2019年12月3日、第2回となるメンバー企業向けセミナー「viewty BRAIN SALON」を開催した。本講演には前回に引き続き「viewty」のAIを開発した諸冨大樹氏が登壇し、ビューティ業界における最新の市場や技術トレンドの講義、またviewtyで実際に取得した肌データから導き出された化粧品のマーケットレポートを紹介。本講義を通じて肌データの活用イメージを持つことを最終目標に、質疑応答も含め展開された。
第一回レポートはコチラ
諸冨大樹
2017年に「異能ジェネレーションアワード 協力協賛企業 特別賞」を受賞。翌年から現在まで、JDLA認定講座の講師としてNTT、東芝テック株式会社を始め200名以上の生徒に教鞭をとる。NoveraのAI開発責任者
AIに対する“最も重要な考え方”とは?
諸冨氏は、AIとは「人間の脳の動きをPCで行えるようにしたもの」と定義する。ここで重要になるのは「PCで行える」という点で、我々が目や口などの五感を使って取得している情報を数値化して機械学習し、アウトプットしていくものとなる。そもそもコンピュータは人間で言うところの「記憶力」(=ストレージ)と「演算力」(=プロセッサ)しか持ち得ないが、ハードが発展すれば当然ながらAIでできることは増えていく。
しかし、AIを社会実装(実務)という点で見ると、諸冨氏が「カオス」と呼ぶ状況になっている一面もある。AIの概念のみを考え、どうやって社会実装するのか?ということまで考えが及ばない研究者や2012年以降から同時多発的に発生した「AIおじさん」、論文を読まないエンジニアなどがいるために、現場に悲鳴が上がることも事実だそうだ。とはいえAIの社会実装を考慮した研究をする者や、適材適所を理解する「おじさん」も同時に共存しているため、AIに対する考え方が非常に重要である。諸冨氏は、もっとも重要な考え方として「人間にできないことはAIにもできない」という点を挙げた。これを念頭に置いた上で様々な媒体などを見ていけば、情報の取捨選択において、リテラシーの高いものが選択できるだろうとのことだ。
ビューティ業界の圧倒的アナログ文化を変える、Beauty×AIの実態について
諸冨氏が調査したところによると、他の領域と比較して、ビューティ業界そのものが“ITの砂漠地帯”とも呼べる圧倒的なアナログ文化である。なぜこれほど普及していないのかと言えば、様々な課題をAIに落とし込める“翻訳家”が少ないのが原因だ。
現状、ビューティ業界に存在するAIとしては「検知系」と「解析系」がある。「検知系」のインプットデータは画像(RGB値)で、これによりシワやシミの検知、顔画像の診断が可能となる。一方「解析系」のインプットデータはアンケートや気候データによる連続値および離散値で、これを使うことにより、お勧めのアイテムをレコメンドするシステムとして活用されている。
すっぴんからメイク後の顔を予測、その逆も。Beauty×AIの未来
そしてこれからの未来予想図として、「検知系」と「解析系」に加え、「探索系」と「生成系」が発生するとの見方を話す。「探索系」とは、Google DeepMindによって開発された囲碁プログラム「Alpa Go Zero」や東京大学が開発した将棋AIの「Ponanza」、Netflixの広告アルゴリズムなどといえばわかりやすいだろう。これを利用することにより、本来は皮膚科の医師など行う問診+画像診断をAI化することができる。また、「生成系」は、ハリウッド女優風の顔画像や美少女画像など、「●●風」の画像を生成することができるのだが、これを応用することによりすっぴんからメイク画像、あるいはその逆の画像生成などが可能となるそうだ。
ビューティ業界のデータからみたAI
ビューティ業界で取得が必要となるデータには肌データや画像データ があるが、ここで理想となるのは、「恒常的な肌診断データ」と「一般的なデバイスで取得した顔画像」だ。特殊な機器でなく、ユーザーにストレスがかからないデバイスを利用することで、より多くのデータを確保することができる。
肌分析には大きく分けて「美容部員の考え方」と「医師の考え方」の2つのアプローチがある。「美容部員の考え方」は美容部員が美容的側面で見たとき、「医師の考え方」は医師が医学的側面で肌を問診したときに、それぞれ肌質や肌のキメやシワなどからどういう印象を受けるかどうかだ。
ここでは「美容部員の考え方」を採用する。さらに、データ取得の技術的な方法としては「画像処理」と「AI(CNN)」があるが、重要となるのは当然「どちらがより美容部員の“目”や“考え方”を再現できるか」という点だ。諸冨氏は、定義があいまいな肌領域ということに関しては、AI(CNN)の特徴量の取得方法が適しているのだという。AIを利用するエビデンスとして役に立つ情報だ。
「来週この辺にニキビができるよ」は可能か?
恒常的な肌分析結果や使用中のスキンケア用品、問診結果などの「肌データ」に、過去にニキビができた日などの「正解データ」を組み合わせることにより、AIによって「いつニキビができるか?」といった予測モデルを構築することが可能だ。持たせるべき情報に関しては、増えれば増えるほど精度が上がる傾向があると言えるだろう。さらに「肌データ」において「いつニキビができたのか」、またAIのアウトプットとして「いつできるか」の情報をもたせ、正解データとして「実際にニキビができた位置」を加えることにより、どこにニキビができるのかという予測モデルを構築することもできる。
こうした予測で、ニキビケア商品の推奨やケア、食べ物の提案などニキビへの具体的かつ適切な訴求ができるだろう。また、まだ研究前とのことだが、肌のターンオーバー周期の予測モデルの設計も可能であり、このデータは定期便系など、年齢層によって異なるターンオーバーの周期を証明し、情報をエビデンスとして活用できると諸冨氏は述べた。
自社の化粧品を使用している人の肌質を知って新しい広告訴求も?サンプリングをバラマキで終わらせないためのデータ活用
化粧品サンプル配布マーケティングの肌データは、「配布した人の肌構成+実際にどのような反応をしたか」という組み合わせで成り立つ。理想的な肌データは、できるだけ細かく、かつ向上的に取得することが必要となる。
2019年11月に北千住マルイにて行われた【マルイ×viewty】3秒AI肌診断イベントで取得したユーザーの各肌質の割合や肌性別の閲覧商品などの統計データの紹介もあった。本レポートでは結果非公開となるが、イベントの様子は下記のレポートを参考にしてほしい。
諸冨氏は最後に、いくつかのデータから導き出される活用例を紹介した。一般的な年代別肌性や自称肌性と測定肌性の違いのデータは、「あなたは本当は乾燥肌だからこの化粧水を使用したほうが良い」など化粧品を販売する際の新たな広告訴求に利用することもできる。
また、年代別の測定肌課題傾向からは、各ブランドのターゲット層が抱える悩みに対して訴求した商品開発が行えるエビデンスとして活用が可能だ。例えば、viewtyでは肌測定をした人が普段どのような化粧品を使用しているかを登録できるため、自社の化粧品を使用している人の肌性や、使用している化粧品からどんな悩みを抱えているかなどを知ることができる。
このように、肌データは大変貴重な資源となるので、ぜひ有効活用すべきであるとまとめた。
※こちらのグラフは全てイメージです。実際のデータではありませんのでご注意ください
ニキビ予測にはどのくらいのデータが必要?AIの勉強法は? 質疑応答
講義終了後は、来場者からの質問に諸冨氏が解答する時間が取られた。
――「AIおじさん」に対して、どのようなリテラシー及び情報提供などのアプローチをすればよいか
AIの資格試験である「G検定(ジェネラリスト検定)」というものがある。難しいものではないので、ここから始めてみるのも良いのではないでしょうか。
――ニキビ予測をするためには、どのくらいのデータが必要になるか
まず100人・3日分くらいのデータに「いつニキビができたか」の正解ラベルをつければ、ごく簡単な予測モデルを組み立て、精度を図っていくことは可能です。ただし、ユーザーの目に触れるレベルのものなら1000人ほど、季節に寄る状態変化もあるので1年間くらいのデータがあれば、精度的にはリリースできるかどうかギリギリのラインのものはできるかもしれません。
――肌分析をAIでやれる会社は国内に何社くらい?
前述の通り、ビューティ業界にはAIの技術者がほとんどいません。権利周りの問題などもあるため、ひょっとすると当社くらいかもしれませんね。
――インプットする肌画像はカメラ性能によって結果は変化するか、また必要な画素数は?
変化します。ただし、ひとつの項目について6000ほどデータがあれば、カメラ性能による差を多少は抑制できるのではないかと思います。画像については、28ピクセル×28ピクセルでも検知はできますが、それ以上であれば。
――AIについて勉強するには、どこから手を付ければよいか?
学ぶなら、AIがそもそも何からできているかから考える必要があります。応用数学、統計学、計算工学についても理解するのがベターですが、ちゃんと使いこなせるレベルまで学ぼうとすると、早くても2年くらいかかるかもしれません。何年やってもわからないところがあるくらい奥深いので、覚悟して挑む必要がありますね。
――ニキビ予測のほかに可能な予測は?
たくさんあります。シワや黒ずみ毛穴もそうですし、女性なら生理周期の予測なども。また、自分と似た肌質の人の情報の密度が高ければ、店頭に行かなくても「化粧品の使用想定時の効果」の予測も可能です。肌に起こりうる事象は、病気以外はある程度すべて予測は可能だと考えています。
――アプリ「viewty」をリリースした反響はどうだったか
DL数も非常に伸びていて、いい意味でサーバーのリソースが圧迫されています(笑)。使ってくださっている方から「肌性が的中した」などの声もいただいており、まだまだ足りていない部分もありますが、リリース時点では好印象を持っていただけたようです。
viewtyはリリースからわずか2日でAI肌測定が1万回を突破したという。今後さらに肌測定データが集まれば、ニキビ予測など様々な機能の実装も現実的になるという。
諸冨氏は今後も、Noveraでは美容課題を持った一人ひとりに向き合い、肌分析をもとにした提案を通じ、自分の肌との対話を幸せな時間として過ごせるような世界をつくることを目指していくと話し、セミナーは終了となった。
文, 写真:平田 珠実
viewty BRAIN CONNECTのご紹介
株式会社Noveraでは、AIで得られた肌データを基にしたメンバー企業様向けサービス「viewty BRAIN CONNECT」を運営しております。
メンバーになっていただけますと、本記事でご紹介した企業向けセミナーなどに参加ができるほか、会員限定の様々なサービスがご利用可能です。
viewty BRAIN CONNECTでできること
①AIが取得・分析した肌統計データより導き出された本質的な化粧品のマーケットレポートを閲覧できる「viewty BRAIN INSIDE(ビューティ ブレイン インサイド)」
地域別・年代別の肌状態や肌課題や使用中の化粧品、店舗別にカスタマイズした自社のレポートを提供。
顧客や担当者の感覚値でない客観性のある肌測定データを得ることができ、より顧客の効果実感が高い商品やサービスの企画に役立てられるほか、顧客のインサイトをついた商品やサービスの提供を通じて、ブランドイメージ向上や商品の購入率アップに繋げられます。
②AI×BEAUTYのスペシャリスト諸冨 大樹が講師を務めるBeautyTech特化型サロン「viewty BRAIN SALON(ビューティ ブレイン サロン)」
メンバー企業様向けに月1回開催される講演で、諸冨からBeauty業界における最新の市場・技術トレンドを習得できます。
ニュースだけでは得られない、第一線で活躍するプロから最新情報を取得することで、効率よく現在の市場把握、また未来を見据えた事業構想や繋がりの形成が可能となります。
また、「より深く聞きたい」という多数のご要望により聞きたいことをカスタマイズ可能な出張SALONも承っております。お気軽にお問い合わせください。
ご希望の方はホームページ内お問い合わせよりご連絡ください。
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